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求人サイトは信用できる?最低賃金以下の求人掲載に見る構造的問題
2016年末、Yahoo!ニュースで報道された「大手求人サイトに最低賃金以下の求人が掲載されていた問題」は、ブラック企業問題とも絡み、多くの反響を呼びました。
一部では「違法では?」という誤解も生じましたが、法的な枠組みや業界構造を理解しないと、この問題の本質は見えてきません。
求人広告業界に身を置く立場として、なぜこうした事態が起こるのか、その背景と構造的課題、そして現場レベルの責任について整理し、私たちの視点をお伝えします。
目次
大手求人サイトに最低賃金以下の求人が掲載された
毎日新聞の調査によれば、2016年時点で国内大手のアルバイト求人サイト6社に計73件、最低賃金を下回る求人が掲載されていたことが判明しました。
アルバイトやパートに関する民間求人情報サイトで、最低賃金を下回る時給の求人が多数掲載されていたことが分かった。 毎日新聞が調べたところ、国内最大級の「タウンワーク」など6サイトで計73件見つかった。 サイト運営会社は「掲載すべきではなかった」と認め、全ての求人情報を訂正した。
最低賃金を下回る求人を巡っては、厚生労働省が運営するハローワークのサイトでも掲載していたことが判明している。 毎日新聞は、公益社団法人「全国求人情報協会」の会員企業が運営し、10万件以上の求人情報を掲載しているアルバイト・パート関連サイトについて、8月時点での内容を調査。
該当する7サイトのうち、最低賃金を下回る時給の求人を6サイトで計73件見つけた。 内訳は、タウンワーク33件▽フロム・エーナビ16件▽weban(ウェブアン)16件▽バイトル5件▽はたらこindex(インデックス)2件▽マイナビバイト1件。
全国求人情報協会は求人広告掲載基準を定め、法令に抵触するものは掲載を控えるよう求めている。 6サイトを運営する4社は取材に対し、いずれも掲載は不適切だったと回答しており、これまでに全て訂正された。
引用:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161225-00000003-mai-soci
該当したのはタウンワーク、フロム・エー、バイトル、マイナビバイトなど、日本の採用市場を代表する媒体ばかり。いずれも「掲載は不適切だった」と認め、訂正対応を行っています。
調べたところ7サイトで約80万件ありますが、そのち77件ですので約0.1%以下です。これを高いと見るか低いと見るかは個人の考え方次第ですが、私としてはシステムで対応できるのになと思いました。実際に最低賃金以下で登録しようとしたらエラーになるシステムを導入している求人サイトもあります。
各社とも如何に効率よくスピーディーに掲載させるか、且つ、問題ない案件を掲載できるかには対策を打っていますが、少し漏れがあったようですね。バイトルはすぐ修正できますが、タウンワークとかどうするんでしょうか…。
掲載件数は全体の0.1%未満とわずかですが、「なぜこうしたミスが起きたのか?」という構造的な問題こそが重要です。
求人広告における「最低賃金違反」は違法なのか?
ネット上では「掲載企業は法律違反では?」という声もありましたが、実は求人広告の内容自体には法的拘束力がありません。
雇用契約が成立するのは「労働条件通知書」や「契約書」によるため、掲載内容と実際の労働条件に乖離があっても、求人広告だけで違法とはされないのが現行法の立場です。
とはいえ、応募者に誤解を与えるような情報を掲載すること自体、企業倫理の問題であり、信頼失墜の原因にもなりかねません。
プラットフォーム運営会社は責任を問われないのか?
今回のような問題が起きた際に焦点となるのが、求人サイト側の責任です。
たとえば、かつて問題となったDeNAの「WELQ」や「NAVERまとめ」などと同様、求人サイトも「プラットフォーム提供者」として掲載情報の内容そのものには責任を負わない構造になっています。
そのため、実際の求人内容が最低賃金以下だったり、男女雇用機会均等法に反する内容だったとしても、サイト運営者には罰則はありません。
特に中堅の求人媒体や、審査基準が緩い成功報酬型メディアでは、こうした法令スレスレの求人が散見されるのも事実です。Wantedly(ウォンテッドリー)とか表記に関してはやりたい放題です。
求人広告業界の自主規制と「全国求人情報協会」の役割
こうした問題に対応するため、求人広告業界では公益社団法人全国求人情報協会が設立され、自主規制を行っています。
求人原稿が法令違反にあたらないか、業界としての基準を設け、適正な情報発信を目指す取り組みが続けられています。ただし、これはあくまで努力義務レベルのガイドラインであり、実効性や罰則を伴うものではありません。
本質的な問題は「現場の対応力と倫理観」
今回の件で私たちが最も問題だと感じたのは、求人サイトだけでなく、現場の営業担当者の対応不足です。
掲載原稿をチェックする立場の営業担当が「御社の時給は最低賃金を下回っています」と伝えていれば、防げたはずのミスだったかもしれません。
求人広告代理店や営業パートナーは、単に広告を売るだけでなく、法令改正や最低賃金の最新情報をクライアントに伝える存在であるべきです。
まとめ
「0.1%の見落としだから大した問題ではない」という考え方もあるかもしれません。しかし、ユーザー視点に立てば「間違った情報を信じて応募した」というケースは、1件でもあってはならないことです。
求人情報を扱うすべての立場の人間が『誰のための情報か』という原点に立ち返ることが、今後の求人業界の健全化に不可欠だと私たちは考えています。