BLOG
エンプロイヤーブランディングとは?注目の企業採用PR手法
「 ○○社は、水やコーラが飲み放題でランチと夕飯が無料らしい。」「☓☓社は、会議室に椅子がない上に、歩く速度が廊下に表示されているらしい。」「△△社は、節電のため夏はサマータイムが導入され、半日は自宅作業らしい。」
いろいろな企業の職場環境についての噂を聞くことがあります。こうした職場環境のイメージというのは、就職を考えている人にとってその企業に応募するかどうかを判断するポイントの一つでもあります。
そこで今、注目されているのが「エンプロイヤーブランディング」という考え方です。今回はソーシャルメディアが台頭するに連れて注目され始めた新しい企業PRの手法について解説していきます。
エンプロイヤーブランディングとは
エンプロイヤーブランディングとは、雇用主として企業という「職場」をブランディングしていくことです。企業や製品のブランディングと同様に、雇用主として企業という「職場」をブランディングしていくことをエンプロイヤーブランディングと呼びます。
ソーシャルメディアが普及するに連れて、企業の評判やイメージは企業が発する広告などのメッセージよりも、その企業に関わった顧客や生活者、取引先などが決めるという側面が強くなりました。いくらきれいな広告を流しても、それが実態とかけ離れたものであれば、顧客は離れていきます。
企業の職場環境も同じです。いくら立派な求人広告を出しても、実際に働いている人が不満を抱えていたり、離職者が多ければ、その会社のメッキは簡単にはがれてしまいます。
そういう意味では、エンプロイヤーブランディングとは、まずは実際に働いている従業員の満足度を上げることから始まると言えます。
今回は、エンプロイヤーブランディングとは何か、ソーシャルリクルーティングとどういう関係があるのかを考えてみましょう。
エンプロイヤーブランディングの定義
エンプロイヤーブランディングといっても、アメリカでも新しい概念で、意識している人はまだまだ少ないのが現状です。定義はいくつかあるようですが、代表的な以下の二つを紹介しましょう。
まず、エンプロイヤーブランディングのストラテジストで、関連する複数の著書があるBrett Minchingtonは以下のように定義しています。
従業員および外部の市場のステークホルダー(能動/受動的な応募者、クライアント、顧客、およびその他ステークホルダー)が考える「働くためのすばらしい場所」としての組織イメージ
続いて、採用活動のためのエンプロイヤーブランディングのコンサルサービスを展開するUniversumでは、以下のように定義しています。
エンプロイヤーブランディングとは、望ましい現在の人材、そして将来の理想的な人材にアピールするために企業が用いる戦略。つまり、エンプロイヤーブランディングとは、企業の人材採用、確保にあたって、職場が魅力的であることをアピールするための方法です。
Universumの2010年の調査によれば、経営者層で、エンプロイヤーブランディングは重要な戦略になると回答した割合は47%にのぼったそうです。経営者層が重要だと考える理由は、優秀な人材を獲得することが企業活動の成功に大きく影響するからでしょう。
特にソーシャルメディアによって、企業がその職場環境や会社の雰囲気などをアピールすることが以前よりもずっと身近になったため、エンプロイヤーブランディングが注目されるようになったということができます。
エンプロイヤーブランディングとソーシャルリクルーティング
ソーシャルリクルーティングとは、ソーシャルメディアを活用した人材採用の手法です。エンプロイヤーブランディングは、ソーシャルメディアやその他のメディアを使って、職場をアピールすることです。
両者はどのような違いがあり、どのように関連しているのでしょうか。オンラインのQ&AサイトQuoraで、両者の違いについてのディスカッションを見つけました。代表的な意見をピックアップして紹介しましょう。
エンプロイヤーブランディングとソーシャルリクルーティングが、どちらがどちらの一部というわけではないが、相互に関連するものだと思う。
ソーシャルリクルーティングはソーシャルネットワークを使った採用活動だが、従業員がブランドの代表として振る舞い、自分のソーシャルネットワークでブランドをシェアすることは、ソーシャルリクルーティングとエンプロイヤーブランディングの両方になるだろう。
ブランド確立のためにFacebook広告を配信することは、ソーシャルリクルーティングではないが、エンプロイヤーブランディングだ。LinkedInを使って人材とつながることはソーシャルリクルーティングだが、エンプロイヤーブランディングではない。
エンプロイヤーブランディングは、従業員が期待していることを理解することから始まり、その上で潜在的な従業員(エンドユーザー、あるいはコンシューマーなど)とコミュニケーションすることだ。
ソーシャルリクルータは、採用活動においてエンプロイヤーブランドをツールの一つとして利用する。ソーシャルリクルーティングは新しい手法であるが、従来の方法とかわらない部分もある。違いは、人事は応募者にアクセスしやすくなったのと同時に、応募者もその企業で働くということがどういうことなのか、知ることができるようになったことだ。
エンプロイヤーブランディングがうまくいっている企業とは?
The Great Place To Work Instituteは、職場環境や従業員の意識などを調査する団体で、その分析結果は雑誌Fortuneで毎年「Best Companies To Work For」としてランキングされています。このランクにのっている企業は、エンプロイヤーブランディングがうまくいっていると評価することができるでしょう。
このランキングを見てみると、必ずしも売上が多いところ、設備が立派なところが上位になっているわけではないことがわかります。
この団体が「Great Place To Work」と定義する企業とは、「信用している人のために働き、自分の仕事に誇りをもち、一緒に働いている人と楽しめる」場所だいうことで、評価項目などが詳しく解説されています。
エンプロイヤーブランディングとは、職場環境の魅力をアピールすることではありますが、最初のステップはもちろん「本当に魅力的な職場を作る」ことにあるといえるでしょう。
その企業をすすめますか?
ネットプロモータスコアという評価指標を知っていますか?これはある製品について、自分が友達に薦めるかどうかを調査して、その結果から顧客ロイヤリティを測るものです。
単純に言ってしまえば、「薦める」と答える比率が多くなるほど、その製品は売れることが予測され、逆に「薦めない」という答える比率が多いほど、製品は売れなくなります。
人材採用に関しても同様のことがいえるでしょう。従業員に「今自分が働いている企業を友達に薦めますか?」と質問したときに、「薦める」と回答される割合、「薦めない」と回答する割合は、今後ますます企業の人材採用力に直結してくると考えられます。
求職者は皆、企業の求人広告だけでは、真実の企業の姿を見分けられないことに気づいています。Googleで企業名を検索してみると、「関連キーワード」として「評判」「ブラック」などと表示される企業があります。これから求職者や取引先などが、企業名と一緒に組み合わせて頻繁に検索している結果なのではないかと考えられます。
実際に「ブラック」というキーワードが関連キーワードとして表示される企業の評判を見てみると、サービス残業や低い報酬、経営者や管理者からのパワーハラスメントなどに不満を訴えっている場合が多くあります。こうした企業では、スキルや能力の高い人材を採用するのが難しくなっているのではないでしょうか。
「誰だ!こんなことを書いた奴は!これからはネットは禁止だ!」というのは、エンプロイヤーブランディングの正反対をいくことです。本当のエンプロイヤーブランディングとは、従業員が自ら企業を人に薦めたくなるくらいに魅力的な職場を作る努力をすることです。
エンプロイヤーブランディング視点からの採用活動
これまで、職場の雰囲気、文化、一緒に働く人との相性などは、「入ってからでないとわからない」ものと思われていました。しかし、ソーシャルメディアによって、企業がユーザーとコミュニケーションをしたり、ブログで考え方を発表することができるようになってから、すこしずつ変わってきたように思います。
「社内で毎月イベント」が魅力的に思う人もいれば、逆に苦手だな、と思う人もいるでしょう。すでに従業員になっている人の満足度を高め、そして飾らない企業の文化や雰囲気をアピールする「エンプロイヤーブランディング」をすることが、最終的に自社にマッチした人材を確保する第一歩なのかもしれません。
エンプロイヤーブランディング5つの指標
①信頼性
管理者が従業員と、会社の方向性や計画について定期的に話し合い、従業員のアイデアを聞いていること。人材やリソースを効果的かつ効率的に調整することを含み、結果として従業員が自分たちの仕事が企業のゴールと関連していることを理解する。信頼性を高めるには、言ったことが行動にならないといけない。
②尊敬
従業員に仕事のために必要な設備、リソース、トレーニングなどを提供すること。良い仕事、努力などに報いることでもある。従業員に提供することで従業員を企業活動のパートナーにすること、部署を超えた協力の心を育むこと、安全で健全な職場環境をつくることなどを含む。尊敬とはワークライフバランスをスローガンではなく、実施することを意味する。
③公平
組織において公平であるということは、経営的な成功を報酬やプログラムなどを通して平等に分配することである。誰もが報酬を得られる平等な機会がある。採用や昇進の決定は公平に行われ、議論などは明確なプロセスを経て裁定し、分け隔てないようにする。
④誇りと⑤連帯感
最後の二つは、関係だ。従業員と自分の仕事または会社の関係(誇りをもっているか)、従業員同士の関係(連帯感をもっているか)だ。
エンプロイヤーブランディングを考えるにあたっては、上記の5つのポイントが自社ではどれくらい達成できているかをまずは評価してみてはどうでしょうか。
まとめ:友達の推薦や働く従業員の姿が職場選びのポイント
経済状況がよくないこともあり、日本の企業の一部では、サービス残業、休日出勤などが横行しているという話をよく耳にします。実際に身の回りにも過労状態にある人も少なくありません。
果たしてそういった企業が今後ソーシャルリクルーティングが一般化し、企業の本当の姿が顕になったときに、求める人材を得られるでしょうか。答えはいうまでもありません。
急に何もかも変えることは難しいでしょうが、まずは経営陣の意識を変え、従業員の満足度という視点からエンプロイヤーブランディングを始めてみてはどうでしょうか。