BLOG
厚生労働省のブラック企業名の公表基準に嘆いた話
厚生労働省千葉労働局は、千葉市にある棚卸し業務代行会社「エイジス」に違法な長時間の残業があったとして、2016年5月19日に是正勧告を行ったと発表しました。
厚生労働省は2015年5月、長時間労働を防ぐために行政指導の段階で企業名を公表する基準を決定して以降、この基準に基づいて初めて企業名が公表されました。今回が初適用となる新公表基準とその問題点について考えていきたいと思います。
エイジスとは
株式会社エイジス(代表取締役社長 齋藤昭生)はジャスダックに上場している棚卸し代行業者で、本社は千葉県千葉市花見川区幕張町。従業員数は701名 (2015.3.31現在)。
全国50ヶ所に営業拠点を置き2015年度の売上は約179億円にのぼる大手企業です。創業家の斎藤一族やその資産管理会社などが大株主に名を連ねるオーナー企業のようです。
公表に至った経緯
厚生労働省によると、エイジスは月100時間を超える違法な残業をさせていた営業所が4ヶ所あり、63人の従業員が過重労働を強いられていました。そのうち最長の労働時間であった従業員の時間外労働は月約197時間にのぼっていました。
厚労省はこの一年間でこれら4つの営業所に4回行政指導を行っていましたが改善が見られず2015年5月19日企業名の公表に踏み切りました。
過去の公開基準
従来、企業の違法な長時間労働に対しては、是正勧告を経て、書類送検がなされた場合に限り企業名が公表されていました。年間是正勧告がなされる件数は約10万件にのぼり、実際に書類送検されるのは1000件程度となっております。
つまり全体の99%は送検・公表に至らず是正勧告の実効性は乏しいとされていました。
過去に社名公表された企業
2015年7月に靴販売チェーン「ABCマート」(運営:株式会社エービーシー・マート)の店舗で、従業員に月112時間もの違法な残業をさせた疑いがあるとして、東京労働局は同社の役員と従業員2人を労働基準法違反容疑で東京地検に書類送検しました。
また牛丼チェーン「すき家」運営のゼンショーでは、2006年に残業代の未払いが発覚。これを機に、全国の従業員が次々に内部告発する動きにつながったが、08年に是正勧告を拒否したことから、労働基準法違反容疑に問われる刑事事件に発展しました。
新公表基準
厚生労働省は2015年5月にブラック企業名公表の新しい基準を発表しました。
①労働基準法違反があり1ヶ月当たりの残業や休日労働が100時間超えであること
②一つの事業所で10人以上の労働者に違法な長時間労働があること
③一年間に3ヶ所以上の事業所で違法な長時間労働があること
④労働基準監督官から是正勧告を受けた大企業であること
これらの要件に該当する場合に公表されます。新基準における最も重要な変更点は行政指導である是正勧告を受けた時点で公表できるということです。
これまでは是正勧告を無視し続け、書類送検にまで至らなければ公表されなかったことからすると公表要件は格段に下がったと言えます。
上場企業ですら社名公表の対象ではない
厚生労働省が社名公表の対象にするのは、複数の都道府県に拠点を置く大企業で、次に挙げる2つの条件の両方に該当することとされており、中小企業は対象外です。
①社会的に影響力の大きい企業であること。②「違法な長時間労働」が「相当数の労働者」に認められる実態が「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」こと
1はいわゆる「大企業が対象である」という意味ですが「大企業」という法的な定義はありません。おそらくは上場企業でも該当しない企業は比較的多そうです。ITインターネット業界ではブラック企業が多いというイメージがありますが、その企業の多くは社名公表の対象外となっています。
1年で1社しか公表されていない・・・
厚労省はこの1年で要件に該当したのが幸いにも1件だけだったとしていますが、違法な長時間労働の企業が1件ということは考えにくいです。間違いなく氷山の一角であり、このままだと多くのブラック企業が公表されないままになるでしょう。
社名公表の対象ではないことに安心して、今まで以上に過重労働がはびこる可能性もあります。労働時間の記録を改ざんするという事例も起きています。
コメント
今後はさらに公表のハードルを下げるべきだと私は考えます。また1年間は求人募集の停止などのペナルティを科す制度がなければ抜本的な解決には程遠いでしょう。誰しもが希望をもって働ける環境ができることを切に望んでいます。