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DeNAのWELQ炎上事件から考えるメディア運営の課題と教訓

株式会社ディー・エヌ・エーが運営していた医療情報キュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」が炎上した事件は、オウンドメディアに携わるすべての人にとって重要な教訓を残しました。
本記事では、DeNAが運営していた医療系メディアWELQの炎上経緯とその本質的な問題点、そしてオウンドメディア運営における教訓を詳しく解説します。
目次
ウェルク炎上の経緯と問題点
ウェルクは、医療・健康に関する記事を扱っていたキュレーションメディアです。しかし、記事の多くが専門知識のないライターによって執筆され、編集部による事実確認や監修も行われていなかったことが明らかとなり、大炎上に発展しました。
- 肩こりは幽霊が原因
- 家系ラーメンは風邪に効く
- 死にたいで転職サイトのアフィリエイト広告
- サプリ「ラクトフェリン」は放射能からの保護効果もある…など
中には誤情報を含む記事や、他サイトからの無断転載・リライトも多数存在し、「ユーザーを騙す行為」として世間から糾弾されました。またウェルク編集部は積極的にパクリ記事を推奨しており、リライト行為が中心だったのも批判の対象となっています。
SEO成功と炎上リスク:DeNAメディア運営の光と影
皮肉にも、WELQ(ウェルク)はSEO戦略では成功を収めていました。
ウェルクは無断転用をはじめ、薬事法や著作権侵害など様々な問題を抱えていますが、SEO対策という意味では成功しており、オウンドメディア運営者としては見習うべきポイントもあります。
特にWELQでは1日に100記事書いていた組織体制・内部マニュアルには驚きました。
引用:第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応方針について
記事の量産体制、キーワード設計、内部リンク構造など、検索順位を上げるための手法は確かに機能していたのです。ウェルクだけで月間3400記事、グループ全体で月1万記事以上という驚異の生産量は、オウンドメディアの「規模と効率」に焦点を当てたモデルとして注目に値します。
追記:2017年3月に公開された調査報告書によると、2015年10月に1000件だった月間公開記事数は、2016年6月には3400件に上がっています。イエモ2000件、メリーの月間公開記事数5000件など10メディア全部合計すると月間1万件を余裕で超えます。
外注ライターと質の低下:クラウドソーシングの現実
ネット上で仕事を仲介するサービス「クラウドソーシング」で記事を外注。「知識のない人でもできる仕事です」として、専門外のライターに記事を書かせていた。原稿料は異常なほど安く、500文字・1000文字で300円から500円程度、比較的単価の高い医療系でも1文字当たり0.5円程度だった。
引用:DeNA「WELQ(ウェルク)」休止…まとめサイトの問題点と背景は
問題の一つは、クラウドソーシングでの大量発注です。
ウェルクの記事はクラウドワークスやランサーズで募集をかけた1文字0.5円(2000文字で1000円)でWebライターが作り上げています。
低単価でライターを募集し「知識がなくても書ける仕事」として量産された記事には、正確性や信頼性が欠けていました。
非常に低単価で驚きましたが、実際に応募する人は多いんでしょうね。このことから、オウンドメディアに専門性をもったライターは必要ないのでは?と考えさせられました。
経験者か、センスのある書き手か。ライター採用の考え方
一方で、経験者だからこそ書ける肉厚な記事もあります。
この事例を通じて「専門家でなくても良い記事は書けるのでは?」という意見も出ましたが、実際には経験者でなければ書けない「肉厚な記事」がGoogleから高く評価される傾向にあります。
構成力や編集能力があっても、現場で経験した体験談、現場経験からにじみ出る説得力は代替できない要素です。
- 「経験者でなければ良い記事は書けない」
- 「編集力とセンスがあれば誰でも書ける」
この2つの相反する主張において、ウェルクは後者の考え方に基づき運営されていましたが、医療のような専門性が求められる領域では、やはり前者の重要性が浮き彫りになりました。
Googleは、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)を重視するアルゴリズムへと進化しています。今後のオウンドメディアは、単なる量産体制ではなく、読者視点・信頼性重視の構成が必須となるでしょう。
現場の矛盾と数字至上主義:組織が抱える課題とは
DeNA創業者・南場智子氏は2012年にモバゲーでおきたコンプガチャ問題(景品表示法違反)から、「透明性」や「社会性」を意識した事業展開を進めると著書『不格好経営』に書かれていましたが、実態はかけ離れていることも追及されていました。
南場智子氏は家族の病気療養のために第一線を引退した経験から、医療健康系事業への参入を決めたと思っていましたが、実態は間違った情報をネットに流布させ、病気で悩んでいたり、苦しんでいる人を混乱に陥れていたことに非常に残念な気持ちになりました。
ただ南場智子さん本人は運営方法にまでタッチしておらず、経営層の関与が限定的だった可能性も否定できません。(追記:12月の謝罪会見によると何も知らなかったとのことです。)
現場のスタッフには同情する部分があります。
当たり前ですが現場のメンバーには目標数字があるわけで、それを追い求めなければいけません。「公平性は保ってね」「PV数は達成してね」という現場からすると矛盾した目標を提示されているではないかと考えたら、少し同情しました。
公平性は数字で表せませんが、PV数は100%数字です。現場スタッフが、どちらを優先するかは明白ですね。
PVという数値目標と、公平性・信頼性という抽象的目標が現場に同時に課されたとき、どちらを優先すべきか。このジレンマは多くの企業でも共通する組織課題でしょう。
まとめ
DeNAのウェルク炎上事件から学べるのは「SEOの成功=信頼の獲得」ではないという現実です。
今回の問題をきっかけに、DeNAは専門家による監修体制を導入しましたが、企業が本当に信頼を取り戻すには実態を伴った運営が求められます。
ウェルクはその後、専門家監修体制を導入したものの信頼を取り戻すには至らず、メディア自体が閉鎖に追い込まれました。
DeNAは「永久ベンチャー」を掲げていますが、都合よく解釈せずに真摯にビジネスにむきあってほしいですね。私たち運営者・編集者も、数字だけに追われず、誠実で健全な情報発信の姿勢を持ち続けたいものです。
メディア運営者は、この教訓をどう活かせるのか。今一度、自社メディアの信頼性や編集体制を見直す機会にしてみてはいかがでしょうか。