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【書評】ワタミの失敗から考えるブラック企業問題と情報発信の重要性
日常記録・雑感備忘「ワタミ=ブラック企業」というイメージを持っている人は多いと思います。実際、ネット上でも過去の報道や口コミをきっかけに、かなり強い批判を受けてきた企業です。
ただ、採用支援や求人広告の仕事をしていると、単純に「ブラックだから終わり」という話では片付けられない難しさを感じます。
今回読んだ『ワタミの失敗』は、単なる企業批判本ではありませんでした。むしろ「なぜ善意の会社がブラック企業と呼ばれてしまったのか」「企業はネガティブ情報とどう向き合うべきなのか」をかなり深く考えさせられる内容です。
特に印象的だったのは「悪評そのもの」よりも「情報発信の弱さ」が企業イメージを固定化させてしまう怖さでした。人材業界・採用支援の視点も交えながら、本書を読んで感じたことをまとめていきます。
新田龍とは
本書の著者である新田龍さんは、ブラック企業問題や労働問題を長年追い続けている人物として知られています。テレビやWebメディアなどにも多数出演しており、人材業界にいる人なら名前を見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。
直接お会いしたことはありませんが、企業内部の事情や労働問題に関する情報網がかなり広い印象があります。単なる炎上ウォッチャーではなく、ブラック企業問題を継続的に分析してきた専門家という表現がしっくりくる人物です。
個人的に印象的だったのは「批判していた問題が改善されたのであれば、その事実まで伝えるべき」というスタンスでした。単純に企業を叩くだけではなく、改善された部分も公平に評価するという姿勢があり、かなり切り込んだ発信をしながらも、根底には一貫したポリシーを感じます。
特に人材業界にいると、ネット上の評判だけでは見えない企業の実態を感じる場面も多いため、新田さんのように「問題提起」と「その後の変化」の両方を追いかけるスタンスは非常に重要だと思いました。
ワタミの失敗「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造
作者:新田龍
出版社:KADOKAWA
発売日:2016/09/08
ISBN-10:4046015799
かつてのワタミは超優良企業と呼ばれていた
いまでは「ブラック企業」というイメージで語られることも多いワタミさんですが、少し前までは“超優良企業”として評価されていた時代がありました。
特に経営面はかなり強く、東京都大田区に無借金経営で自社ビルまで持っているというのは、当時の外食業界の中でもかなりインパクトがありました。経営本やビジネス誌でも成功企業として取り上げられることが多く、「居酒屋チェーンの成功モデル」として見られていた印象があります。
さらに強かったのが事業の分散です。リーマンショック以降、外食業界全体がかなり厳しい状況になりましたが、ワタミは介護事業が収益を支えていました。
経営論では「特定の事業に依存するな」とよく言われますが、ワタミはまさにそれを実践していた企業だったと思います。
しかも、当時の介護業界は「利益が出にくい業界」と言われていました。実際、大手介護会社でも赤字決算が珍しくなかった時代です。そんな中で「ワタミの介護」だけが黒字を出していたのはかなり異質でした。
当時の介護業界の業績比較を見ると、本当に一人勝ちに近い状態で「どうやって利益を出しているんだ…」と業界内でも話題になるレベルだった記憶があります。
もちろん、その急成長の裏側で現場負荷や組織課題が積み重なっていった部分もあったと思います。ただ少なくとも、『ただの問題企業』として片付けられないほど、経営力が強かった企業だったのは間違いありません。
渡邉美樹の手腕
買収という背景があったにせよ、異業種からの参入わずか数年で収益の柱にしたのは創業者の渡邉美樹さんの手腕によるところだと思います。
当時は異業種からの参入に拒否反応をしめす評価が多かったですが、外食で培ったワタミ流のサービスは介護業界でも評判が高かったようです。※ただし、介護の採用はおそらく死ぬほど大変だったと思います。
ある飲食店の社長を集めたトークセッションで「ワタミの社長(渡邉美樹)は真似するな。真似しようとしても出来ないから」という言葉がいまだに印象的です。俗にいう成功者の世界でも別格の存在として扱われていました。
それぐらいエネルギーに溢れた立志伝中の人です。じゃないと東京都知事に立候補したり、国会議員にはなろうとはしませんね(笑)
ポジティブな情報発信の重要性
本書の中では「ブラック企業と呼ばせないことは、これからの時代の重要な経営課題」と書かれています。
さらに「ネガティブ報道は完全にはコントロールできない」「だからこそ第三者目線のポジティブな情報発信が必要」という内容にも触れられていましたが、これは本当にその通りだと思いました。
特に採用支援の仕事をしていると、悪評が採用へ与えるダメージの大きさを日々感じます。
企業側は「昔の話だから」「一部の誤解だから」と思っていても、求職者側は普通に検索します。しかも最近は本人だけでなく、家族や恋人まで会社名を検索する時代です。親御さんが「この会社大丈夫なの?」と心配して、内定辞退につながるケースも実際にあります。
悪評は削除より上書きが重要
ただ、多くの企業はネガティブな情報を「消すこと」ばかり考えてしまいがちです。もちろん事実と異なる誹謗中傷への対応は必要ですが、それだけでは根本解決にならないケースも多いと思います。
なぜなら、ネット上に自社発信の情報が圧倒的に足りていない企業が多いからです。
たとえば飲食店なら「食べログ」がありますが、採用市場でも「転職会議」「オープンワーク」「みんなの就職活動日記」など、口コミサイトの影響力はかなり大きくなっています。
もし企業情報がそういった外部サイトにしか存在しない状態だと、企業イメージの主導権を自社で持てません。これは特に中小企業ほど不利です。
だからこそ、地味でもいいので「社員インタビュー」「現場の取り組み」「改善していること」「働いている人の空気感」などを、自社でも発信し続けることが重要なのだと思います。
情報発信の価値は数字だけでは測れない
弊社でも、企業の情報発信や採用広報のお手伝いをすることがあります。ただ、正直この価値を説明するのはかなり難しいです。
「情報発信して、どれくらい応募が増えるの?」「具体的に数字でどれくらい効果あるの?」と聞かれることも多いのですが、ブランディングや企業イメージ改善は、広告のように即数字化できるものばかりではありません。
ただ、採用が強い会社ほど、長い目線で情報発信を続けているケースが多いのも事実です。逆に、何も発信していない会社ほど、古い口コミやネガティブ情報だけがネット上に残り続けてしまいます。
今回この本を読んで改めて感じたのは「発信しないこと」自体がリスクになっている時代だということでした。
Xや口コミサイト、YouTubeの切り抜きなど、一瞬で企業イメージが拡散される時代だからこそ、企業みずから情報発信する重要性を、今後ももっと伝えていきたいと思います。
まとめ
『ワタミの失敗』は、単なるブラック企業批判本ではありませんでした。むしろ「企業イメージはどう作られるのか」「ネガティブ情報と企業はどう向き合うべきか」を考えさせられる一冊だったと思います。
ネット上では「ワタミ=ブラック企業」というイメージだけが独り歩きしがちですが、本書を読むと、当時の経営背景や組織構造、急成長企業ならではの歪みも見えてきます。
もちろん、労働環境の問題を軽視していいわけではありません。ただ一方で、企業側がどれだけ改善しても、その情報が世の中に伝わらなければ評価は変わりません。
これは今の採用市場でも同じです。口コミサイトやSNSが当たり前になった時代では「良い会社なのに知られていない」は、実質的には大きな損失です。逆に言えば、地道に情報発信を続けている企業ほど、採用でもブランドでも少しずつ差が開いていく時代になったとも感じます。
いまワタミさんはCI(コーポレートアイデンティティ)を刷新したり、様々な労働環境改善に取り組んでいます。ワタミさんは批判もされますが、多くのファンがいるのも事実。ワタミさんの今後の活躍に期待したいと思います。
ワタミという企業を好きか嫌いかは別として、経営者・採用担当者・情報発信に関わる人なら、一度読んでおいて損はない本でした。

