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求人募集から考えるキャリアアップ助成金の功罪
雑記・日記・備忘録厚生労働省がおこなっている助成金の中に「キャリアアップ助成金」と呼ばれるものがあります。2013年から始まった政策で、有期契約労働者や派遣労働者などの正社員ではない労働者の労働意欲や能力を向上させ、優秀な人材確保を目的とした助成金です。
審査を通過しないともらえない補助金と違い、一定の条件を満たせば全員に支給してくれる事業主には嬉しい制度です。融資とは違いますので、返済する必要もありません。
こまかく言うとキャリアアップ助成金の中に様々な助成内容と助成金額がありますが、メインに「有期雇用(アルバイト)から正規雇用(正社員)に転換」という条件があります。企業規模にもよりますが、中小企業なら約57万円もらえます。
厚生労働省がおこなった2018年の労働力調査では、正社員になりたくてもなれない労働者が250万人いると言われている中で、正社員化を促進させる有意義な政策です。
ただ残念ながら本来の目的を見失っている企業もいます。それは本来は最初から正社員採用できるのに、助成金目当てでアルバイト採用(契約社員採用)から始める企業がいることです。これでは本末転倒です。
上記の方法は違法ではありませんが、求人屋の立場から意見を言うと求人募集しても「とにかく反響が悪い」ことが問題です。正社員募集なら採用できていたと考えられる求人が、アルバイト求人にしたばかりに失敗したケースを何度か見てきました。反響が悪い原因は「アルバイトなのに正社員と同じ募集要項」であることが挙げられます。
当然ながら正社員と同じ週5日勤務が最低条件ですので、大学生や主婦は不可となります。正社員になりたい求職者が、わざわざアルバイト求人を見るかと言われると…ちょっと厳しいです。即戦力が期待できる経験者なら、わざわざ見劣りするアルバイトで働こうとは思いませんし、仮に給与や福利厚生が正社員と同等といえども正社員のほうが安心感が違います。
雇用形態だけアルバイトと正社員の違いで、その他の条件はまったく一緒で募集したと仮定すると、感覚値ですが最低でも採用単価2~3倍の差があるんじゃないでしょうか。つまり求人広告費が2~3倍かかるのと同義語です。助成金をもらうためだけに、求人広告費を2~3倍かけるという矛盾…( ̄▽ ̄;)
採用単価3倍説を採用したとします。本来なら求人広告18万円で採用できるとしたら、3倍の54万円かかります。助成金で57万円もらえますが、手元にはたった3万円しか残りません。
助成金申請の手続きの手間や、申請にかかる労働時間を考えると、考え方次第ではマイナスかもしれませんね。それにアルバイト採用が成功したとしても、本人希望で正社員になりたくないケースや早期離職するケースも考えられます。
どうやら社労士が「こういう助成金があります。こうすれば受給条件を満たしますよ」と経営者にアドバイスしているみたいですが、当然ながら求人募集にどのような影響を与えるかは全無視していますので、上記のような悲しい結果に終わることも。「求人屋も儲かるからいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、私は今回のやり方が賢い選択だとは思いません。
助成金をもらうためだけに正社員採用を中止してアルバイト・契約社員採用をするのは採用難易度や早期離職の観点からおススメできません。最初から正社員採用できるなら正社員採用をするようにしましょう!
2022年6月2日追記
今日、聞いた興味深い話は
中途採用媒体で正社員募集をかけ、面接のときに「正社員にするから」と伝え、契約社員として採用し、正社員に登用し、給付金をもらい差分で儲けるということが、組織的に行われ。で、そういう求人が各種転職サイトに載り続けているという問題。
厚労省も知っているよねきっと— 常見陽平 (@yoheitsunemi) June 1, 2022
労働社会学者で働き方評論家の常見陽平氏も同じような事例を言及していました。求人サイトで正社員と募集しながら入社時は契約社員の手法は「釣り求人(ダミー求人)」と呼ばれる手法で、かなり以前からあった古典的手法です。私が上記で挙げた事例よりも求職者を騙す行為になるので悪質だなと感じました。悪質な企業は求人サイト運営会社にクレームをしっかり入れましょう。